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東京マラソン

松尾塾伝統芸能の稽古には、小学生の在塾期間は保護者の引率を必須としています。なぜなら、芸の上達にはご家庭のサポートがなくてはならないからです。

朝礼が10時前にあるので、9時半くらいになると三味線や浴衣の大きな荷物を持った塾生が「おはようございます。よろしくお願いいたします。」と、元気良く登塾してきます。

しかし、いつも元気いっぱいのSちゃんが、今回は笑顔がなくやって来ました。稽古場の入口で、立ったまま入ってきません。素足のまま靴を履いてきたので、素足厳禁の稽古場が通れないのです。Sちゃんの引率はいつものお母さんではなくお父さんでした。

考えたSちゃんは入口で白足袋に履き替え、なんとか塾生控え室までやってきました。お父さんの話では、「朝から微熱があり、今日は稽古を休みたいと本人が言っているんです。」とのことでした。

熱を測ると36.2度でした。稽古に参加できない熱ではありませんでした。

「みんなと一緒にいると元気になって、稽古できるかもしれないからお支度しましょう」と促し、浴衣に着替えてもらいました。いつもはお母さんに手伝ってもらっているSちゃんですが、今回は頑張って自分で着替えました。Sちゃんはまだ小学校低学年です。

着替えても元気のないSちゃんに、今回の塾の日は東京マラソンの日で、沿道がコースになっていたので、「今朝は、静かな街が朝からボランティアの人達がいて賑やかだね。東京マラソンの日だね。」と話してみました。

歩道橋 IMG_7510

そうすると「東京マラソンにお母さんが出るの」と教えてくれました。

もしかするとSちゃんは東京マラソンを走るお母さんを応援に行きたかったのかもしれませんね。もしくは、お母さんに松尾塾についてきて欲しかったのかもしれません。稽古場に居ても、沿道で応援する声、賑やかな声が聞こえてきます。なんとなくSちゃんのことが気がかりで、一日中見守っていました。

最初は気が乗らず、ぐったりとしていたSちゃんでしたが、稽古をしているとだんだん元気になってきました。途中からはどの教科もSちゃんなりに頑張っているように見えました。お昼はお弁当のかわりに、「牛丼食べてきたよ」とお父さんと一緒に近くの牛丼屋さんでランチをすませ、午後もまた元気に参加しました。

結局、朝調子が悪かった理由は分かりませんでしたが、いつもついて来てくれるお母さんが不在の中、浴衣の着替えも一人で頑張り、稽古も真剣に受けられました。実は今回の稽古、狂言、日本舞踊、長唄は新しい部分に入り、鳴物は締太鼓の総復習ともいえる内容だったので、とても大切な稽古でした。

長く一つのことをやっていると、時には気分が乗らない、やりたくない時が出てくると思います。しかし、ここで頑張れる人と頑張れない人は、後で差が出てしまうと思います。「松尾塾伝統芸能 塾生として学ぶこと」の一つに、“夢中で講師の先生や先輩に従ううちに、小さい子にも集中力と忍耐力が身につくこと”があります。

今回のSちゃんのように、自分に打ち勝ち、前へ進める人は、成長して先輩となった時、自らが入塾当時の実体験で、自然と思いやりをもって後輩の世話をするようになります。これも前身となった松尾塾子供歌舞伎からの伝統です。

このことが活かされるかどうか分かるのはずっと先のことですが、東京マラソンを完走したお母さん、松尾塾を頑張ったSちゃん、Sちゃんを引率したお父さんは、間違いなくみんな笑顔で一日を終えられたことでしょう。松尾塾伝統芸能を通して、かけがえのない親子の絆も深まればと思います。

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