第36回松尾芸能賞

大 賞 歌謡 五木 ひろし 芸能生活50周年を迎え、あらゆるジャンルの作品を歌いこなす優れた歌唱力は誰もが認めるところである。
「よこはま・たそがれ」の大ヒット以来、現在まで歌謡界を牽引し続け、レコード・CDの売上げはもちろんのこと、各媒体への出演や商業劇場での長期座長公演、全国コンサート等、多分野に亘る活動で多くの人に感動を与え親しまれてきた。日本の歌謡音楽文化の普及・発展に大きく寄与してきた功績は称賛に値する。
優秀賞 舞踊 出雲蓉 「第47回出雲蓉の会」で地唄舞「夕顔」「葵の上」の二曲に出色の味わいを見せ舞の成熟を感じさせた。
とりあげた二曲はともに「源氏物語」を本説とする謡曲に材をとった地唄の舞で、御息所の怨霊を浮彫りにし、その演出・振付は高貴の女性の哀切と悲愁をよく表出し感銘の深い作品に仕上げた。
また「地唄舞をわかってほしいと希う会」を現在まで5回主催し上方舞・地唄舞の普及啓発と愛好支持者の拡大に尽力した活動を続けている。
優秀賞 邦楽 奥村旭翠 奥村旭翠氏の筑前琵琶の語りほど、一音一音、一語一語が明快で美しい日本語は多くの伝統音楽の中でも滅多にない。よく通る声で暖かく情のこもった、しかし悲しげな叙情的な表現から荒々しい豪快な表現までその劇的表現の巧みさで人々を惹き付ける。琵琶の音は芯がある音で人の心にしみわたるような静かな一音から、激しい戦いの場面まで琵琶も物語を語っている。
近年、見失われがちであった筑前琵琶の魅力を彼女の芸は見直させるだろう。
優秀賞 テレビ 室井滋 NHK連続テレビ小説「花子とアン」で、ヒロイン村岡花子の母親役「安東ふじ」をつとめ、大正・昭和戦前期の貧しい農家の一人娘、気ままな入り婿の妻、夢多き娘と悩み多き子たちの母という難役を的確に演じ分け、みごとな存在感を示して光るものがあった。
主役を引き立てながら同時に脇筋としての女の一生の姿を現実味あり豊かに演じてこの一篇のドラマに膨らみと重厚さを加えることに奏功した。
優秀賞 演劇 井上芳雄 東京藝術大学在学中に「エリザベート」で鮮烈デビューを飾って以来、「モーツァルト!」、「ミス・サイゴン」、「ダディ・ロング・レッグズ 足ながおじさんより」等、大作や話題作に主演し高い歌唱力と柔軟な演技力でそれぞれの役を的確に造形し日本のミュージカル界を牽引してきた。
一方、ストレートプレイにも数多く出演して優れた演技を示し、歌手、俳優としても幅広い活動を続けている。
新人賞 演劇 中村七之助 昭和62年に「門出二人桃太郎」で二代目中村七之助を名乗って初舞台を踏んで以来、父十八世中村勘三郎の指導のもと歌舞伎の修業を重ねてきた。
近年は清潔感のある容姿を活かし若手女形として数々の娘役を演じてきたが、父が急逝後は兄である勘九郎と中村屋一門を支えるとともに、父の遺志を継ぎ納涼歌舞伎、コクーン歌舞伎、平成中村座公演を続けてきた。
平成中村座ニューヨーク公演、凱旋記念も行うなどめざましい活躍を見せた。
特別賞 映画 戸田奈津子 半世紀にわたり数多くの映画字幕翻訳を担当してきたスペシャリストである。字幕という限られた字数の中で役にふさわしい語彙や言葉遣いで人物の性格や人柄を伝え、時には瞬時の状況や感情の変化さえも理解させ、映画を観る楽しさと喜びを与えてきた。戸田氏の訳した字幕のなかには、観客の思い出に生涯残るような名セリフも少なくない。まさに、映像の世界の隠れた職人芸ともいうべき堅実で熱意ある仕事ぶりは顕彰にふさわしい。
功労賞 演芸 根岸京子 浪曲(浪花節)の定席として浅草の木馬亭は今や極めて貴重な存在となっているが、その席亭として半世紀に及び浪界振興発展のために貢献してきた。特に浪花節の芸能伝統が弱体化し、その保存が危ぶまれた時期をひたむきな尽力によって逆境を盛り返し今日の成果が導かれたことは高く評価できる。
研修助成賞 民謡 日本民謡プロ協会 同協会は自主公演「民謡定席」を毎月開催し、バイタリティーと親しみのあふれるステージ構成で舞台と客席が一体となって民謡の楽しさ、素晴らしさをホール全体に繰り広げている。郷土色豊かな民謡が伝える庶民の哀歓や風俗伝承を多年にわたり続ける同協会の熱意と努力は、日本の芸能にとって極めて貴重でその功績は大きい。

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