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第14回松尾芸能賞


大賞 演劇 山田五十鈴 昭和62年に制定された「山田五十鈴十種」は、36年から61年までに初演されたかずかずの舞台のなかの当たり役が選ばれたものである。以後、順次「五十鈴十種」は上演の機会をもってきたが、1月の「女坂」(東宝劇場)では明治の高官の妻白川倫を演じ、男の身勝手に耐えて時代を生きる女の哀しさ、強さにすぐれた演技を示した。9月の「愛染め高尾」(東京宝塚劇場、11月南座)は、吉原随一の高尾太夫を演じ、権力や金力に反抗する堂々たる貫禄、いちずな紺屋職人にこころ打たれる恋の若々しい純情ぶりを、見事に造型化した。病気などの不幸を乗り越え、長い芸歴に裏打ちされて、今円熟の芸境を示す、すばらしい二役は、高く評価される。
優秀賞 演劇 中村梅之助 劇団前進座のリーダーとしての重責を果たしながら、最近は古典歌舞伎への挑戦を続けている意欲は目覚ましい。とりわけ、「四千両小判梅葉」(5月国立劇場)の富蔵、「魚屋宗五郎」(10月前進座劇場)は気力にあふれた充実した舞台であった。前進座の歌舞伎路線を継承し、次世代へつなげていくためにも、この好演は重要な意味をもつものである。
優秀賞 演劇 植田紳爾 宝塚歌劇団にあって常に高いレベルのすぐれた正統派のレビューを演出している。平成4年は「紫禁城の落日」「この恋は雲の涯まで」など活躍が顕著である。
優秀賞 伝統芸能 吉田簑助 文楽の人形部門のなかで意欲を示し、「本朝廿四孝」(9月国立小劇場)の八重垣姫において活気ある演技を示し、とくに奥庭では多数の狐を出して若手をリードしてドラマを盛りあげた。その他、文楽の新しい可能性を試みるなど、積極性と最近の技芸の円熟は高く評価できる。
優秀賞 邦楽 山崎旭萃 筑前琵琶の第一人者。ひじょうに豪快な語り口と撥さばき、悲哀の情感をたたえた胸に迫る切々とした表現、そして華麗な美しさなど、スケールの大きな表現で、筑前琵琶を現代の人々に共感できるような生命感のある芸術に高めてきた。また琵琶と詩吟をもとに親しみ易い琵吟をつくるなど、筑前琵琶の普及につとめ、指導者としても多くの人々に信頼されている。今年芸歴80年を迎えられ、ますます活躍されている。
優秀賞 舞踊 楳茂都梅衣 ベテランであると同時に、若々しい前進を示している舞手である。門下を育成しつつ、西(京都)、東(東京)で「楳茂都梅衣舞の会」を活発に開催。各作品の内容、曲趣をいかによりよく舞ろかに真摯な努力を続けている。定評がある「ぐち」「小簾の戸」等のつや物はもとより、どれもが心のゆきとどいた舞である。多くの芸術にふれて視野を広げ、自己を高めている勉強ぶりも注目され、それがまた彼女の舞のふくらみともなっている。
優秀賞 歌謡芸能 三船和子 25年前「他人船」のヒット曲を出した直後、交通事故に遭遇し、歌手を断念したにもかかわらず、歌謡芸能に寄せる一途の情熱で10年前にカムバック。「だんな様」をはじめとする夫婦演歌で活路を開き、新たに「他人船」の続編ともいうべき「北港」で第二の女シリーズに挑むなど、精力的に活動している。また自分が交通事故から立ち直った経験からNHK厚生文化事業団を通し交通遺児に基金を寄せる等、社会福祉事業にも大いに貢献しており、その真摯な姿勢は賞賛に価するものがある。
特別賞 演劇 中村又五郎 わが国の文化遺産である歌舞伎を保存育成するための伝承者の養成を目的として昭和45年、国立劇場に俳優の養成研修制度が創設されて以来、その主任講師として第一期研修生から現在まで一貫して歌舞伎演技の総合的指導に尽力し、研修成果は大きな実績として高く評価されている。歌舞伎俳優全体の高齢化がすすみ、名題下の俳優も減少している現在、後継者の養成に盡した功績はまことに顕著である。
特別賞 邦楽 杵屋彌十郎 関西歌舞伎のタテ唄として活躍し、しばしば山田抄太郎と行動を共にし、芸力的にも一時期、先代芳村伊十郎と好敵手と称された身で戦後のアメリカへ渡り、以後30年ロサンゼルスを中心に長唄の教授につとめた。帰国後は東京で自分の会を主宰、渡米前の何事につけてもしっかりとした長唄の芸を身につけて居り、「吉原雀」のような遊里物「橋弁慶」のような豪傑物に、他の追随を許さぬ感覚がある。大切にしたい一人である。
特別賞 舞踊 畑道代と「菊の会」 畑道代(尾上菊乃里)が創立した舞踊集団「菊の会」は、21年の歩みを重ねている。この間、日本の風土、日本の心に根ざした舞踊劇や、民族芸能の活力と魅力を盛りこんだ創作舞踊等を発表。「カッチャ行かねかこの道を」「藍の女」をはじめとする優れた作品を生み続け、多くの人を楽しませてきた。その活動は、国内は勿論のこと、19ヶ国、20回に及ぶ海外公演にも成果をあげている。舞踊にはなじみがなかった家庭の少年達を集めて育成し、プロのチームをつくりあげた畑の力も特筆される。
特別賞 歌謡芸能 松井由利夫 昭和31年、日本マーキュリーレコードの専属作詞家になったのを機に本格的な作詞活動に入り、38年の長きに亘り、第一線の作詞家として現在も活動を続けている。特に日本音楽著作権協会監事を初めとして日本音楽著作家連合理事長、藤田まさと賞、制定運営委員の中枢として等、縁の下の力持ちとしての役職を引き受け多くの人に愛されながら音楽業界の発展に尽力してきた功績は顕著である。
新人賞 演劇 中村信二郎 二十一世紀歌舞伎組のリーダーの一人として、そのグループを統率すると共に次々と古典の大役に挑み、特に平成4年12月歌舞伎座「絵本太功記」十段目の十次郎では目ざましい技量の伸張を示した。